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松山地方裁判所 昭和34年(ワ)262号 判決 1961年8月23日

原告 越智信茂

右訴訟代理人弁護士 佐伯源

被告 三共株式会社

右代表者代表取締役 寺田良之助

右訴訟代理人弁護士 菅生謙三

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「被告が訴外日野信一に対する松山地方裁判所昭和三四年(モ)第一九八号仮処分決定正本に基き別紙目録記載の物件についてなした仮処分執行はこれを許さない。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として、「被告は訴外日野信一に対する右仮処分決定正本に基き、昭和三四年六月一二日愛媛県周桑郡丹原町大字今井四三一周桑青果農業協同組合倉庫において、右物件(以下本件物件という)につき処分禁止の仮処分執行をなした。しかし本件物件は原告が同年三月二五日同訴外人に貸付けた金二、〇〇〇、〇〇〇円の内金一、七三二、一〇〇円の代物弁済として同年四月二七日所有権を取得し、右協同組合に預託した物件の一部であつて右訴外人の所有でないから、被告が同人に対する右仮処分決定正本に基き本件物件についてなした仮処分執行は失当であり、その排除を求めるため本訴に及んだ。」と述べ、被告主張の抗弁事実を否認し、証拠として甲第一ないし第三号証を提出し、証人柳原整一郎の証言を援用した。

被告訴訟代理人は本案前の抗弁として、「本件物件は訴外日野信一を破産者とする破産財団に属するものであるから、被告は当事者適格を有しない」と述べ、本案について主文同旨の判決を求め、答弁として、「原告の請求原因事実中被告が原告主張の日その主張どおりの仮処分執行をなしたことは認める。原告が右訴外人に対し貸金債権を有することは知らない。」と述べ、抗弁として「原告の主張する代物弁済は虚偽表示によるもので無効である。すなわち右訴外人は昭和三四年二月中旬頃から多額の債務超過となつたため、原告と通謀して、被告その他の一般債権者多数を害することを図り、同年四月二八日付で本件物件を原告に代物弁済したかの如くに仮装したのである。従つて原告の請求は失当である。」と述べ、甲第二号証の成立は不知、その余の甲号各証の成立は認めると述べた。

なお原告訴訟代理人は訴訟引受参加の申立をなし被申立人木原鉄之助をして被告のため本件訴訟を引受けさせる旨の決定を求め、更に訴外日野信一の破産管財人木原鉄之助を被告として本件訴訟手続を受継ぐ旨の申立をなした。

理由

被告が訴外日野信一に対する松山地方裁判所昭和三四年(モ)第一九八号仮処分決定正本に基き、同年六月一二日本件物件について処分禁止の仮処分執行をしたことは当事者間に争いがないところである。そして原告が本件訴を提起したのが同年七月二〇日であることは訴状に押捺された受付印により明らかであり、訴外日野信一が同年八月一二日松山地方裁判所において破産宣告を受けたことは弁論の全趣旨により認めることができる。

ところで、仮処分の目的物に対する第三者異議の訴である本訴係属中に債務者である右訴外人が破産宣告を受けても、同人は訴訟当事者でないから本件については民事訴訟法第二一四条の適用はなく、その訴訟手続は中断しないのであり、破産法第六九条の受継の問題も生じない。訴訟は従来の当事者すなわち第三者である原告と執行債権者である被告との間に係属するのであつて破産管財人が当事者となるわけではない。しかしながら右訴外人が破産宣告を受けた結果として、破産法第七〇条第一項本文の規定により同人に対する仮処分はその効力を失い、被告のなした前記仮処分も無効に帰すこととなる。従つて本訴はもはや破産財団に関する訴ともいえないから同法第一六二条に規定する当事者適格を問題にする余地はない。結局右仮処分の排除を求める原告の本訴請求はその目的を欠くに至つたのであるから、その余の点を判断するまでもなく失当としてこれを棄却すべきものである。

以上の次第であつて原告の訴訟引受参加および訴訟手続受継の各申立については、いずれも当を得ず理由がないのでこれを却下し、本件は訴外日野信一の破産という特殊な事情が原告敗訴の原因となつたもので本案の争点である本件物件の所有権の帰属について原告の主張を排斥したものではないけれども、弁論の全趣旨により考察すれば原告の本訴提起当時右訴外人はすでに支払不能となり破産宣告を受けることも充分予想しえた事情を窺うことができるから、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条に従つて原告に負担させるのが相当である。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊東甲子一 裁判官 仲江利政 堀口武彦)

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